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インタビュー記事:浜銀総合研究所の機関誌「Best Partner(ベストパートナー)」2018年12月号

■この記事は 浜銀総合研究所の機関誌「Best Partner(ベストパートナー)」 2018年12月号に掲載されたインタビュー記事を、WEB用に編集したものです。

Section.1 英国発のヘアケアブラシを日本に持ち込み大ヒット

途中で引っかかることなくスムーズに髪をとくことができたら楽なのに――。絡まった髪をブラッシングするたび、そう考えている女性は多いはずだ。
じつは、髪の長い人ならではの悩みを解決してくれるブラシがある。イギリス生まれのヘアケアブラシ「タングルティーザー」だ。通常のブラシは、髪が引っかかるとそこで止まってしまう。しかし、タングルティーザーはブラシの部分が長短2段の構造になっていて、柔らかい素材でつくられている。そのため一度引っかかっても、髪はブラシに弾かれて次のブラシに。このメカニズムで髪が少しずつ解けていくため、力を入れずともスルスルとブラッシングできるのだ。

タングルティーザーは、「ヘアブラシ」ではなく「ヘアケアブラシ」と名乗っている。ブラッシングは、もともと髪をケアして美しく保つためにおこなわれるものだった。しかし、パーマや染めで傷んでいる髪にブラシを通すと、引っかかったり切れたりして、かえって傷みがひどくなる。そのために近年トリートメントでヘアケアをするという考え方が美容業界の主流になっていた。

しかし、タングルティーザーは、髪を傷めるリスクがほとんどなく、むしろ髪の美しさを引き出してくれる。ブラッシング本来の役割を果たすという意味で、ヘアケアブラシという呼び方にこだわっている。まさに魔法のようなブラシを女性たちが放っておくはずはない。開発されたのは2007年だが、本国イギリスではセレブ達が使い始めたことをきっかけに、ベストセラーになった。現在はイギリスのみならず、世界中で愛用者が増えている。

このブラシを日本に持ち込んだのが、タングルティーザーの日本総代理店を務める株式会社プリアップの明永敏悟社長だ。明永社長がこのブラシに出合ったのは、ロサンゼルス在住の2009年。当時はアメリカでの販売が始まったばかり。ハリウッドのサロンに勤めていた社員の妹から「すごくいいブラシがある」と聞き、関心を持った。試しに自社の社員に配ったところ、みんなが絶賛した。
「ブロンドの細い髪の人向きかなと思っていたのですが、日系人が使っても『これはいい』と言う。調べてみたら、日本ではまだ取り扱いが始まっていない。これは日本でも売れると思って、ロンドンに飛んで代理店契約を取りつけました」

さっそくアマゾンで販売したが、最初は反応が鈍かった。動き始めたのは、サロンにサンプルを配ってからだ。
「プロの方が『すごい』と言ってくれると説得力があります。それを聞いて購入した一般のお客様がアマゾンに口コミを書いてくれるようになって、徐々に浸透し、今ではこのジャンルでトップの商品に育ちました」

日本での累計販売個数は250万個を突破。今年の販売個数は100万個を見込む。勢いが止まらないが、明永社長は「ブームにしたくない」と控えめだ。
「おそらく値下げすればドカーンと売れるでしょう。しかし、タングルティーザーは10年、20年後でも支持される本当にいい商品。ヘタに一過性のブームをつくるより、いいねと思ってくれる方が少しずつ増えていくような育て方をしたいです」

Section.2 ゲーム会社の米子会社の立て直しのために渡米

そもそも明永社長はなぜロサンゼルスにいたのか。半生を振り返ってみよう。明永社長は1993年、バブルが弾けた直後に横浜国立大学を卒業する。当時は就職氷河期が始まる前。このまま社会人になっても成長できないという思いがあって、すでにもらっていた大手企業の内定を蹴って、1年間をアルバイトやインド放浪に費やした。

1年のモラトリアム後に就職したのは、『信長の野望』『三國志』などのゲームで知られる株式会社コーエー(現コーエーテクモゲームス)だった。
「営業部に配属された新入社員は、最初の1年間、ユーザーサポートでクレーム対応を担当します。ただ、1年間だけではユーザーサポートの本質はわからない。私は自らもう1年志願して2年やりました。文句を言われる日々でもの凄いストレスでしたが、強い思いを持ったお客様だからこそのクレームなんだと実感できた貴重な2年間でした」

営業部に戻った後は、卸から直販に切り替えるプロジェクトを担当。数カ月で約15社の問屋との契約を解除して、200社以上の小売店と契約を結ぶというハードな仕事をこなした。その働きぶりを買われて、2000年にコーエーのアメリカ子会社のマネジャーとして赴任する。じつはコーエーは早くから米進出を果たしていたものの、売れ行きは芳しくなかった。
しかし、赴任後『真・三國無双』などヒット作にも恵まれ、一気に業績は回復、任期満了と共に日本への帰国命令が出た。「ここで得た様々な経験が、経営者としての土台を作ってくれました。そして、当時日本のロールプレイングゲーム(JRPG)は海外では売れないといわれていましたが、その理由が翻訳のクオリティにあると確信していました。ですので『単なる翻訳』ではなく、現地のカルチャーに合わせる『カルチャライズ』を丁寧におこなうことで、JRPGを海外に広めるチャレンジをしたいと思っていました」

結果、明永社長は現地に残って独立する道を選択。株式会社日本一ソフトウェアの出資を得て、100%の子会社を立ち上げた。アメリカ時代は、コーエー時代も含めて、『真・三國無双』(コーエー)、『ディスガイア』(日本一ソフトウェア)、『アトリエ』(ガスト)シリーズなどの数々のゲームタイトルを現地でヒットさせている。

転機が訪れたのは、タングルティーザーと出合った2009年。アメリカで仕事をしていた明永社長は、タングルティーザーを輸入する日本側受け皿として子会社の宍喰屋を設立した。さらに2012年には日本一ソフトウェアとの資本関係を見直して完全に独立。株式会社プリアップを設立して、代表取締役社長に就任した。
現在、タングルティーザー事業は同社の売り上げの約半分を占める大きな柱に育った。大学卒業後に1年間のモラトリアムを過ごしていなければゲーム会社への就職はなく、ゲーム会社への就職がなければ渡米やタングルティーザーとの出合いもなかった。人生はどのように転ぶのかわからないからおもしろい。

Section.3 事業者とアマゾンを結ぶ中間流通事業を手がける

プリアップには、ゲームでもタングルティーザーでもない、別の事業の柱もある。アマゾンの中間流通事業だ。
いまさら説明は不要かもしれないが、ECサイト、アマゾンの仕組みを説明しよう。

アマゾンに並ぶ商品は、アマゾン自身が出品をするケース(リテール)と、別の事業者がアマゾンのスペース(マーケットプレイス)を使って出品するケースがある。
リアル店舗のイオンモールにたとえれば、スーパーのイオンがアマゾン、テナント部分がマーケットプレイスだ。じつはリテールへの出品はどの会社にも門戸が開かれているわけではない。リテールに出品したければアマゾンの商品カテゴリーごとに口座を開く必要があるが、強い商品を持っていない中小中堅メーカーには年々狭き門となっているのだ。

もちろん、誰でもマーケットプレイスへの出品は可能だ。しかし、同じ商品であればリテールでの売り上げはマーケットプレイスの数倍に及ぶといわれている。

この問題の解決策としてプリアップがおこなっているのが、アマゾンの中間流通事業だ。
プリアップは、アマゾンの各カテゴリーに自身の口座を持っている。そこでアマゾンに口座を持たない中小中堅メーカーから商品を仕入れて、アマゾンリテールに販売。このように、プリアップを通せば、最も売れるチャンスが高いアマゾンリテールの店頭に商品を並べることができる。明永社長がこの事業を思いついたのはアメリカ時代だ。
「アメリカでアマゾンが急成長していく姿を間近で見ていました。日本はまだこれからでしたが、物流網を考えると、むしろ日本のほうが将来性は高いと判断。アマゾンへの中間流通を手掛けることにしました」

プリアップ自身、設立したばかりで実績はなかったが、ゲーム会社時代の人脈がものを言った。
「ゲームカテゴリーのバイヤーを知っていて、口座開設を後押ししてくれました。当時はアマゾン・ジャパンもリテールへの出品を増やそうとしていたころで、タイミングもよかった。ゲームから始めて、ホーム、ヘルス&ビューティ、シューズ&バッグ、食品など、現在は15カテゴリーまで増えました」

中小中堅メーカーにとってのメリットは、自社で口座を持たなくても販売できることだけではない。仮に自身で口座を持てたとしても、アマゾンからの発注に対応するには、かなりの手間とコストがかかる。間にプリアップという中間業者を挟むことで、その負担から解放されるのだ。

どういうことか。通常、卸や小売店への納入は1箱や1パレット単位だ。
しかし、アマゾンの注文単位は1個だ。需要予測から数個まとめて発注を受けることもあるが、日本各地のアマゾン倉庫に1個ずつ送るので、どちらにしてもオペレーションの負担は非常に大きい。
一方、プリアップは、売れ筋の商品については通常の卸と同じようにまとめて仕入れてくれるため、オペレーションの手間や物流コストが軽減される。また、プリアップはアマゾンより支払いサイクルが短い。メーカーにとってはファイナンス面でも魅力が大きいだろう。

アマゾンへの出品をコンサルティングする会社は複数あるが、プリアップのようにリスクを取って仕入れをおこなう卸事業を展開している会社は少ない。中小中堅メーカーにとっては貴重な存在で、現在は約200社と取引して、約12万アイテムをアマゾンで販売しているという。
「ヨドバシカメラなど他のECサイトにも横展開を開始しています。またアマゾンでも、現在は自社で広告を出して販促のノウハウを蓄積中。ノウハウが確立すれば、お客様にコンサルティングサービスとして提供することも考えています」

Section.4 目指すゴールは「パブリッシャー」

じつはプリアップには他にも事業がいくつかある。先ほど紹介したアマゾンへの卸売り事業はメーカーとアマゾンをつなぐBtoB事業だが、一方で、自社サイトやアマゾン、楽天内店舗で消費者に直接販売するBtoC事業も展開中だ。
「世の中にはいい商品なのに、ブランディングがうまくいっていなくてあまり知られていないものも多い。そういった商品を、ライフスタイル提案をしながら販売していきます」具体的には、奥出雲地方のブランド米である「仁多米」や、作家手づくりの食器を販売中だ。

さらに現在とくに力を入れている事業が、日本のいいものを世界に紹介するカルチャライズ事業だ。
「日本のいいものをそのまま海外に持っていっても売れないことはゲームで経験しました。他のものも同様です。たとえば今治タオルも欧米人にはそのままのサイズでは小さいので、大きめにする必要がある。そこで私たちが海外バイヤーとやりとりしながら、日本のいいものをカルチャライズしていく事業を展開しています」

現在のところ、売り上げはタングルティーザー事業が50%、アマゾンのBtoB事業が40%、BtoC事業が10%、カルチャライズ事業は立ち上がったばかりという状況だが、いずれはカルチャライズ事業を大きな柱として育てていく予定だ。

プリアップは創業6年のスタートアップ。経営資源が足りないスタートアップは、事業の〝選択と集中〟がセオリーだ。にもかかわらず、なぜ同社は多岐にわたって事業展開するのか。明永社長は自身の夢を最後に熱く語ってくれた。
「日本には一部大手を除いてパブリッシャーがいません。パブリッシャーとは出版社ではなく、総合コンテンツプロデューサーのこと。つまり製造から流通、販売まで関わってブランドをつくれる会社がいないのです。プリアップが目指すゴールはそこ。パブリッシャーになるために、いまは各領域の壁を越えて自分たちでノウハウを蓄えているところです」
とてつもなく大きな夢だが、それだけに挑戦のしがいがある。今後の動きにも要注目だ。